マリオ・ジャコメッリ 20世紀ヨーロッパの申し子であるマリオ・ジャコメッリは、1920年代にイタリアの マルケ州にあるセニガッリアに生まれました。セニガッリアはアドリア海に面した町 です。アドリア海には、幻想的なストーリーの語り手を形作る力があるのかもしれま せん。ちなみに、どの土地でもどの時代でも理解されるストーリーを創造したフェデ リコ・フェリーニもアドリア海のほとりに生まれています。 貧しい家庭に生まれたジャコメッリは、幼少にして父親を失うというトラウマを負うことになります。3人兄弟の長男で、町のホスピスで洗濯婦の仕事を見つけた母について、小さな時からホスピスに出入りしていました。人生の終わりという残酷な光景、 抗うことのできない老いを目の前に彼の性格が形成されていきます。これが彼の美に 対する感性以前に、将来を予兆させるものとなります。 ジャコメッリは若くして印刷の仕事を始めます。経済的な理由ももちろんですが、それは彼の選択でもあり、生涯この仕事を続けることになります。名刺、レターヘッドなどの印刷をしていく中で、白地に活字で記される黒、光と影がくっきりと織り成すありさまに慣れ親しんでいきました。写真が彼の生活に飛び込んできたのは1950年代のことでした。それはほぼ偶然だったのですが、彼の生活を大きく変えることになります。 彼の持つ創造への意欲をすべて吸収し、強烈な知的活力の為すさまざまな経験、発言、メタファーをそこに集積していきます。それは凡庸ではない、まれにみるオリジナリティーを持つものでした。 印刷所での仕事と並行して、日曜日にはカメラを手に近隣の丘陵地帯を歩き回り、夜は夜で現像に時間を費やしました。 マリオ・ジャコメッリの作品は、驚くほどにさまざまな写真ですが、その大部分はある着想を強い核として構成された連作となっています。