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LOGOS GALLERY
展示会内容 会場風景
アンティークプリントの知られざる世界
(左上から右回り)マルタゴンユリ ヨハン・テオドール・デ・ブリィ「花譜」ヴァレンティーニ版、東南アジア図 アブラハム・オルテリウス「世界の劇場」、人魚 トーマス・アストレー「新旅行記集成」、再洗礼派の女性衣装 ルイ・マリー・ランテ「ヨーロッパの女性衣装」、三本足のニワトリ ヨハン・ダニエル・マイヤー「陸水動物細密骨格図譜」

アンティークプリントの知られざる世界

会 場 LOGOS GALLERY ロゴスギャラリー 渋谷パルコ パート1 / B1
期 間 2007.04.27 (fri) - 2007.05.09 (wed) ※会期中無休
10:00am - 9:00pm ※最終日は5:00pmにて終了
入場料 無料
お問合せ 03-3496-1287(ロゴスギャラリー)
展示会内容
日本でも最近はボタニカルアートや鳥の版画などのアンティークプリントを見かけるようになりましたが、それらのものも単に可愛らしさや生物好きの興味で選ばれていることも多く、歴史的な変遷を追って紹介されていることが無いようです。
これら博物画も重要なジャンルですが、アンティークプリントにはそれ以外にも様々なジャンルの面白い版画が沢山あります。
今回はアンティークプリントに正面から取り組み、過去の知識と情報の宝庫である西洋アンティークプリントの広範なジャンルの作品を、歴史的にも概観できるように一挙に公開します。すでにアンティークプリントに深い知識を持つマニアのお客様にも新しい驚きを与えられる作品から、インテリアを飾るユニークなアートとして気取らずに選んでいただける作品まで展示・販売します。
アンティークプリントとは?

アンティークプリント(西洋古版画)の歴史は、グーテンベルグが活字印刷技術を発明し本の出版が始まった時期とほぼ重なります。もちろんレンブラントやウィリアム・ブレイクなどが作ったファインアートと呼んで良い版画も作られましたが、アンティークプリントの多くの作品は、科学、技術、学問などの情報などを、文章と共に絵によって広く伝えるために作られたものです。
知識を伝えるための絵なので、時としてファインアート作品に宿る作家性やエゴイズムから解放された普遍性がこれらのアンティークプリントにはあります。また扱っている題材が原初的な自然科学、まだ人間の温もりを感じる科学や技術、現在では失われてしまった世界などを忠実に描いたものなので、古さよりは郷愁に近い人間的な優しい感覚を見るものに与えてくれます。実際、欧米のインテリアデザインの世界でアンティークプリントが優しい空間を演出するアートとして重用されているのは、このようなことが理由のひとつでしょう。
とは言え、何百年も前に作られた版画なので、たとえ学問的に真面目な作品だとしても、現代人の目から見たら驚くべき絵が沢山あります。
西洋人は分からないところがあっても空白にすることができないようです。分からないところは想像力で埋めてゆくのです。結果として奇想天外な作品が生まれることになりますが、実はここがアンティークプリント鑑賞の醍醐味でもあります。架空の動植物、未知の国の摩訶不思議な世界、伝聞が事実として受け入れられ、絵に描かれています。とにかく現代とはかけ離れた常識の下で暮らしていた人々が作った絵なので、究極のナイーフ絵画と言えるかもしれません。
しかし現代人が知らないものでも、かつて本当にあったものがアンティークプリントには描かれています。例えば野生植物などはかなりのものが絶滅していて、古い版画でしか確認できないものが沢山あります。動物もしかりです。都市も変容を続けており、ある時代の都市の有様は古い版画の中でしか見られません。民族衣装のように保存の難しいものが記録された版画の価値は計り知れません。現在の学問や知識が過去との繋がりの上に成り立っているのなら、アンティークプリントの持っている価値は単なる1枚の絵以上のものがあるのです。

展示作品(一部紹介)

東南アジア図 アブラハム・オルテリウス「世界の劇場」
東南アジア図 アブラハム・オルテリウス「世界の劇場」
1570年 アムステルダム 手彩色銅版画
各国語版も作られた当時の大ベストセラー地図帳に収められた東南アジア図。マルコ・ポーロ「東方見聞録」からの伝聞的な情報も事実として記載されている不思議な地図。まだヨーロッパ人が誰も足を踏み入れていない日本がおかしな形で描かれていますが、これは九州を巨大化して描いているためです。人魚や怪獣(クジラ)も登場している16世紀的な装飾に満ちた素晴らしい地図。
三本足のニワトリ ヨハン・ダニエル・マイヤー
三本足のニワトリ ヨハン・ダニエル・マイヤー「陸水動物細密骨格図譜」
1748年−56年 ニュルンベルク 手彩色銅版画
18世紀博物学奇書のひとつ。かなりの図版で動物と同じポーズをした骨格図が付けられているのがバロック的です。そしてこれもバロック趣味と言えるかもしれませんが、奇形種が結構取り上げられていて、このニワトリには足が三本あります。
人魚 トーマス・アストレー「新旅行記集成」
人魚 トーマス・アストレー「新旅行記集成」
1745年−47年 ロンドン 銅版画
昔の旅行記は面白い図版の宝庫ですが、ここでは人魚が描かれています。(一番上の図)アンデルセンの童話などに出てくる人魚とは似ても似つかない姿ですが、これが当時のヨーロッパ人に信じられていた典型的な人魚の姿で、たくさん模写も作られています。その他イッカクやアシカも描かれていますが、どれも興味深い描写になっております。
再洗礼派の女性衣装 ルイ・マリー・ランテ「ヨーロッパの女性衣装」
再洗礼派の女性衣装 ルイ・マリー・ランテ「ヨーロッパの女性衣装」
1827年 パリ 手彩色銅版画
19世紀フランス最高のコスチューム・プレート作家ランテによる唯一のフランス以外の女性衣装シリーズ。このプロテスタントの一宗派再洗礼派の女性衣装は、このシリーズに登場している衣装の中で最もシンプルなものですが、それゆえに清貧で禁欲的なイメージを強く感じさせます。しかし我々の目から見ると最も現代的で活動的な衣装に思えます。ファッション画などよりも学問的意義の高い作品。
マルタゴンユリ ヨハン・テオドール・デ・ブリィ「花譜」ヴァレンティーニ版
マルタゴンユリ ヨハン・テオドール・デ・ブリィ「花譜」ヴァレンティーニ版
(1612年−)1719年 フランクフルト 手彩色銅版画
初期銅板花譜時代の夜明けを告げる傑作植物図譜。この植物図集には当時のバロック趣味を反映して、バロック庭園で作られていた奇形栽培の花が描かれています。このユリも実に奇妙な形で咲いていますが、1613年にヤコブ・デ・フェイの庭園で実際に作られたものだそうです。
無足鳥(極楽鳥)クサヴェリオ・マネッティ「彩色分類鳥類学図譜」
無足鳥(極楽鳥)クサヴェリオ・マネッティ「彩色分類鳥類学図譜」
1767年−76年 フィレンツェ 手彩色銅版画
博物図譜研究の第一人者シットウェルからコレクター趣味において五指に入る鳥類図鑑と折り紙が付けられた傑作。この足の無い鳥は極楽鳥(フウチョウ)なのですが、剥製でヨーロッパに持ち込まれた際、足が切り取られて作られていたため、生まれてから死ぬまで地上に降りること無く一生飛び続ける鳥、と当時は信じられていました。 無足鳥は古い鳥類図譜には時々描かれています。
楽譜
楽譜
18世紀前半 マニュスクリプト
これは版画ではなく、一枚一枚手で書かれた手稿による楽譜で、教会で実際に使われた輪唱のためのものだと思われます。そして本として装丁するために、二枚の楽譜を表裏で貼り合わせており、手間が掛かっています。楽譜のスタイルと紙質から18世紀前半のものと思われます。この時代のものは楽譜と言うより、それ一枚で素晴しいアートです。
桃花 ピエール・ジョセフ・ビュショー「中国ヨーロッパ美花彩色図譜」
桃花 ピエール・ジョセフ・ビュショー「中国ヨーロッパ美花彩色図譜」
1776年 パリ 手彩色銅版画
フランスを代表する奇才博物学者のひとりビュショーの最高傑作図譜。中国の植物を紹介した当時としては他に類の無い植物図譜で、漢字の使用、東洋的背景、鳥や昆虫の配置など、とても当時のヨーロッパ人が作ったとは思えません。この絵は「桃花」となっていますが、ようするに「梅とウグイス」です。この組み合わせがヨーロッパですでに描かれているのが驚きです。
皇帝ネロの黄金宮殿図 C・F・X・ミロ神父「ローマ史図説」
皇帝ネロの黄金宮殿図 C・F・X・ミロ神父「ローマ史図説」
1796年 パリ 銅版画
ローマ皇帝ネロの宮殿ということですが、どう見ても中世スタイルの宮殿です。ある意味この好い加減さがアンティークプリントの醍醐味です。
大仏殿 アルノルド・モンタヌス「東インド会社遣日使節紀行」
大仏殿 アルノルド・モンタヌス「東インド会社遣日使節紀行」
1669年(1680年) アムステルダム 銅版画
奈良の大仏を描いたものですが、実際とは大きく異なり大仏は変に艶かしいし、周りには聖人が並んでいます。光臨には天使が飛んでおり、天井はヨーロッパの聖堂のようです。狛犬(変な形ですが)もおりますし、二本差しの人もいて部分部分は合っています。これは手紙で送られた文字だけの情報を絵に起こしたためで、情報が無い部分、例えば天井などは想像で描いたので、ヨーロッパと日本がゴチャゴチャになったこのような不思議な絵が出来上がった訳です。
漆の用箪笥と皿 ジョン・バーンリィ・ワリング「1862年万国博に出品された工芸品・彫刻の傑作」
漆の用箪笥と皿 ジョン・バーンリィ・ワリング「1862年万国博に出品された工芸品・彫刻の傑作」
1863年 ロンドン 多色刷リトグラフ
各国の技術の粋を集め、ロンドンで開かれた当時の大見本市に、すでに遥々日本からも出品があったという貴重な記録。この他にも薩摩焼の陶器や灯篭などの鋳物細工が出されています。 外国で作られた版画記録ゆえに分かる文化交流の歴史です。
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